作品

向日市の家

専用住宅
設計、工事監理:畑友洋建築設計事務所
構造設計:萬田隆構造設計事務所
造園:荻野景観設計

京都府向日市における旧家の建て替えの計画である。周辺には農地が広がり、古くから生垣や塀で囲われた領域の中に、母屋を中心とするいくつかの家屋の集合が1つの家の単位となる、ゆったりとした地割の農家型住居が点在していた。近年の急激な市街化により、このような農家型住居は次第に取り壊され、区画を細分化した、都市型の高密度な住宅地がパッチワーク状に増殖しつつあり、新旧の異なる様相が混在した状況にある。
このような場所に新たな住まいを計画するにあたり、既に実生活と乖離が起きつつあるこれまでの歴史の反復ではなく、かといって地域に無関係に流れ込む現代性でもなく、これまでの地域の歴史に根差しながらも現代の生活を受け止める住まいのあり方について考えてみた。
具体的には、旧来の農家型住宅は農作業のための広場や畑までも内包した、ゆったりとした生活領域の囲い取りと母屋を中心とした家屋群という特徴をもち、その姿は地域の生活に根差し歴史とも接続する説得力を持っている。一方で、現代における住生活に立ち返ってみれば、かつての農家型住宅が持つ母屋を中心とした家屋群のヒエラルキーは既に意味を失い、棟を分けた多世帯の関係も解消されており、むしろそれぞれの居場所が大らかに連なる住まいのあり様へと変化させることが自然であるように思えた。
そのような視点から住まいを構想し、かつての農家型住宅のように住まいの居場所を規定する小さな家屋群が、階層化しながら接続するのではなく、ぶつかり合い溶けあって連続しながら、全体として大らかな生活領域を囲いとる形式へとつながった。農耕集落から導かれたコートハウスとでも呼べそうである。
古い農耕を中心とする集落の歴史を持つこの地域ならではの住まいのあり方と現代における生活を重ねることで、住まいのイメージが現在の地域の様相と接続し、物理的な住まいの枠を乗り越え、認識における住まいを周囲に広がる地域へと拡張しようとする試みでもある。

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