作品
五条の連棟町屋
- 連棟の京町家改修(店舗併用住宅)
設計、工事監理:畑友洋建築設計事務所
構造設計:萬田隆構造設計事務所
時間にかたちを与えること
京都における3棟の連棟町屋のうちの1棟の改修計画。対象となる連棟町屋は建設時期が不詳で少なくとも100年以上前に建設されたものである。周囲にも同様の連棟町屋が残っており、路地を形成している。この計画に先立ち、そもそも今日、劇的に変化する京都において決して特殊なあるいは建築的、歴史的に価値を持つものとは言いがたい、言うなればありふれた町屋を維持し続ける意味そのものを見つめる必要があった。私は、その問題に対し、一般的に重視されるような町屋ならではの様式性や素材の取り扱い等、物理的な空間そのものを規定する事物そのものの側面、ややもすると抒情的でノスタルジックな側面というよりは、これまでそこにあり続けてきた物理的な時間の幅そのものが価値なのではないかと考えた。どこにでもある土壁やゆがんだ木架構の事物に迫るというよりも、その事物に宿った時間そのものに価値があり、つまり継承すべきは部材や素材、架構の純粋性ではなく、これまであり続けた時間そのものであり、この時間を継承する、未来へと受け継いでいることそのものがかたちとなって現れることにより、物理的な空間の枠を超えた、悠久の時間の中にある圧倒的な広がりを認識できる建築が生まれるのではないかと考えた。
このような時間を引き継ぐという観点から、改めて現代の眼差しで対象の京町屋をとらえた際、その存在は圧倒的に脆弱なものに見える。それは構造における地震力等の根本的な問題をかかえ、いくら表面的な模様替えにより、美しく取り繕ったとしても、これまでの時間に未来の時間を接ぎ木してみるイメージを持つことは難しい、つまり未来に町屋を継承する時間を認識することは難しい。だからこそ現代の眼差しから架構をとらえなおし、未来に時間を推し進めうる架構の物語こそが重要であり、その物語にかたちを与えてみたいと考えた。
まず、路地奥の町屋で可能な基礎形式として、手運び及び人力で施工可能なスクリュー基礎を採用し、中規模の地震に対しては、粘り強い木架構で受け流す、町屋が本来持っている構造の特性を生かし、局所的に固めすぎない木架構の補強を行った。
次に町屋規模の木造では受けきれない地震力が入力された際、連棟町屋を継承するためにも3連棟すべての地震力をまかなえるだけの鉄板によるコアを、町屋の伝統的な空間構成を踏襲しながら通し柱と母屋の位置から中央2畳の4本の柱の内側に、中地震以上の変異によって外れた母屋を受け、柱の転倒を抑制する機能が作動するよう木架構から45mmのクリアランスを設けて配置した。決してやわらかに揺れている程度では力を発動させないよう注意した。
このように外力に対し単なる補強でもなく、作り変えることでもない、2つの架構が並走する物語がかたちとなって現れることにより、表面的な延命にとどまらない、過去からの時間と未来への時間そのものが接続され、一つになって流れ続ける時間軸として認識の中に浮かび上がらせる継承のありかたを模索した。